やってた……
何となく察しはつくけど、それ以上の事は俺には聞けなくて、手に持っていたボールを玩んでいると。
「俺ね、二十歳までしか生きられないらしんだよ」
「え……?」
まるで普通に会話でもするようにアキラがそう言ってきて、俺は持っていたボールを落としてしまった。
「次第に筋力が衰えていく病気なんだ。まだなんとかボールは掴めるけど、今は一人で歩く事も出来ない、その内起き上がる事も出来なくなって、完全に動けなくなる」
俺は言葉を失ってしまって、ただアキラの話を黙って聞いていた。
「俺さ、こんな病気の身体だけど、バスケが大好きで、弱小車椅子バスケのチームで細々とバスケやってたんだ。
そんな時に知り合いの理学療法士の先生が、洋介をうちのチームに連れてきたんだよ。
洋介は元々の素質からか、みるみる内に上達して、気付けばうちのチームのエースになってた。
弱小だった俺達は洋介につられて、以前よりも必死に練習するようになって、お陰で、周りからも一目置かれるような立派なチームにまで成長したんだよ。
試合に勝てるようになって、バスケがもっと好きになって……
でも、そんな時がずっと続く訳もなくて、俺の身体のリミットが近付いてきて…、とても試合に出れる状況じゃ無くなってきた…」
アキラはそこまで話すと、床に転がったボールに視線を向ける。
「ボール、取ってくれないか?」
「あ……、うん」
俺は床に転がったボールを掴むと、アキラに放って投げた。
アキラは両手でボールを掴もうとするけど、ボールの勢いが強かったのか、それを掴む事が出来ずにボールは掌から弾かれて再び床に転がった。
俺は投げてよこすんじゃなかったと、心の中で後悔した。
「ごめん、アキラ…」
「はは。こんなボールも取れないなんてな」
立ち上がりボールを拾って、今度は投げずにそれをアキラの膝の上に置いた。
「残された時間はあと1年……、洋介がパラリンピックで活躍する姿は……、残念だけど、見れそうにないな…」
「それは困る」
いきなりドアが開いたかと思うと、トレイを持った洋介が部屋に入ってきた。
「……洋介…」
「俺の五輪グッズは欲しくないのか?」
「それは……、かなり欲しいかも…」
「日本代表のユニフォームとか、実際試合で使用した俺のサイン付きバッシュとか」
「はは、それヤバイ」
「試合で使ったバスケットボールとか」
「いくらでも出すぞ?」
「アホ、金なんかとるかよ」
「ははは」
笑うアキラの表情はとても晴れやかで、見ている俺の方はそれとは逆に胸が苦しくなってしまった。

