翌朝。
総合病院へ行き、岡田先生からの診断書を持って会計で支払いを済ませる。


奏に会いたいけれど、面会時間は午後1時から。


ヨースケとの約束もあるし、奏には会わずにばあちゃんちへと向かった。













「あら。いらしゃい、茜ちゃん。どうぞ?上がって?」

「………お邪魔…、します」


ばあちゃん……
せめて君付けにしてくれ。


いつからか洋介のばあちゃんは、俺をちゃん呼ばわりするようになってしまっていて。


正直。女みたいな名前に若干のコンプレックスを抱いている俺としては、出来ればやめてもらいたい。


なんて言える筈もなくて、いつものように家に上がりリビングへと通された。


広々としたLDKのソファーには、ハルとシロが寄り添って昼寝中。


「暑かったでしょう?麦茶入れるわね?」

「ありがと、ばあちゃん」


ばあちゃんはキッチンに向かい、俺は寝ている二匹を起こさないように、反対側のソファーに腰を下ろした。


ばあちゃんのうちはいつもピカピカで、窓なんて手垢ひとつついていない、窓から見える庭先はまるで森の中に居るみたいに緑が沢山ある。


草花に興味なんてないけど、ばあちゃんちの庭は綺麗だと思う。


こんな俺がそんな事を思ってしまうなんて、きっと緑には癒し効果もあるんだろうな。


「あれ?洋ちゃんは」


ヨースケの気配がしなくて、ばあちゃんにそう尋ねると。


「あ。洋介はね、病院、もう直ぐ帰ると思うんだけど」

「病院?どっか悪いの?」

「いえ、病気とかじゃないのよ?義足のメンテナンスなのよ、背が少しだけ伸びたみたいで、その調整」

「……そっか」


そうだよな。
身長なんて時折伸び縮みしたりする訳だから、そのつど調整は必要だよな。


「あのね。茜ちゃん」


麦茶をテーブルに置くとばあちゃんは二匹の横にゆっくりと腰を下ろした。


「何?ばあちゃん」

「シロちゃんの事なんだけど、暫くうちで預かりましょうか?」

「……預かる?」

「奏ちゃんも入院してるでしょ?茜ちゃんも夜はアルバイトだし、シロちゃんが毎日遊びに来てくれるのは嬉しいんだけど、車の通りも多いし事故にでも遇ったらって思うと……」

「……うん」

「洋介も奏ちゃんも交通事故……、もしシロちゃんまでって思うと、おばあちゃん、心配で…」


……バカだな俺は。
そんな事まで考えてなかった。


交通事故で左足を失ってしまったヨースケ。
そして奏。


奏が目の前で事故に遭ってしまった瞬間を俺は目の当たりにして、その後の奏は無事だと知らされるまでのあの絶望的な気持ちを知ってる。


ばあちゃんはあの気持ちを知ってるんだ。


俺だってあんな気持ちをまた体感するのは……


二度と、ごめんだ。