アパートに帰り着いたのは午前0時少し過ぎ。


シャワーで入浴を手早く済ませて、ベッドに腰掛け、タオルで頭を拭きながら、ヨースケに明日の昼過ぎ位に行くからとメールの返信。


携帯を閉じると髪も乾かさず、そのままにベットに身体を投げ出した。


……課題…
やんなきゃな……


とか思ってはいるけど、意思に反して身体は動こうとはしない。


仰向けになり、片腕を額に乗せて目を閉じた。


閉じた瞼に浮かぶのは、怯えてシーツにくるまっていた奏の姿。


微かに震える奏を後ろから抱きしめた時の、久し振りに感じた奏の感触がまだ身体に染み付いていた。


雷の恐怖からの行動だと言う事はわかってはいるけど、振り返り、俺に身体を預けて眠りに落ちる奏が愛しくてたまらなかった。


俺の事……
早く…、思い出してくれよ。
……奏。


そんな事考えても仕方ないって思っていても、そう願わずにはいられない。


奏もシロも居ない、たったひとりの夜は静かすぎて、余計に寂しさが込み上げてくる。


−−ヴーヴーヴー…


テーブルの上に投げ出していた携帯が振動して着信を知らせて、起き上がり見てみると兄貴から。


「……はい」

『おう。お疲れ、今いいか?』

「うん。もう帰ってきてるから、何?こんな遅くに」

『お前、最近帰ってこないじゃん、母さん、寂しがってるぞ?週末位は帰ってこいよ』


この前の拓也達と家に行ったきり、実家には帰っていない。


勿論奏を連れて帰れる訳じゃないから、色々と聞かれるのは面倒だし、上手く誤魔化せる自信もない。


「……課題もやんなきゃなだし、バイトもあるし、夏休みだからって暇じゃないんだよ…」

『まぁ、そんな事だろうとは思ってたけど、とにかく、今度の休みにでもいいから一度帰ってこい』

「何?何か用事?」

『ああ』


言い切る兄貴に俺は何事かと訊ねようとしたけど、わざわざ家に帰ってこいって言う程だから、それを電話越しに聞くのは躊躇われた。


「……わかった。明日帰るよ。多分夕方か夜になるけど」

『わかった。母さんに言っとく』

「うん。おやすみ、兄貴」

『じゃ、明日な。おやすみ』


電話を切ると再びベットに沈み込んだ。


何の用事なんだろうか?
わざわざ帰ってこいなんて……


考えても仕方ないか、家に帰ればわかることだし。


そのまま目を閉じて、まだ腕に微かに残る奏の身体の温もりを感じながら、次第に意識が遠退いていった。