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奏が俺の腕の中で眠ってしまったのを確認してから、奏をそっとベッドの上に寝かせた。


雷は通りすぎて、雨も随分と小降りになってきた。


眠る奏の唇に軽くキスを落として、額にかかる前髪を指先でそっとかき分ける。


病室を出ると岡崎先生が扉の前の壁に寄りかかり、俺が出てくるのを待っていてくれた。


「ありがとう…、ございました…」

俺は深く頭を下げた。


「……行こうか?」

「はい」


無理矢理院内に入れてもらったんだ、これから何処に連れていかれるのかは、大体察しがつく。

警備員の所に差し出されるか、もしかすると通報されるか。


非常識な事をやったんだ、仕方ないと思ってるし、覚悟も出来てる。


でもうちにこの事がバレたら困るな……
奏の入院は家族には秘密にしてるから、色々と厄介だ。


保護者を呼べとか言われたりしたら……

……カケルさんに頼もうか…


なんて。
色々と思考を巡らせながら、岡崎先生の後を着いて、来た時と同じような経路で再び夜間外来の出入り口に戻ってきた。


「はいコレ」


岡崎先生は書類らしき紙切れを俺に差し出した。


「何ですか?…コレ…」


俺は書類を受け取りながら岡崎先生に尋ねた。


「診断書と処方箋」

「は?……」

「夜間は会計出来ないから、明日以降窓口で支払いしてね?」

「でも俺……、何処も悪くないし、診察なんて受けてません、だから…」

「君は今夜風邪で診察受けたの」

「…………」

「そう言う事にしとこうか?僕の立場もあるし」

「……はい」

「でも、もうこれっきりね?」

「…はい」

「じゃ、もう遅いから、帰ろうか」

「はい」


岡崎先生は何を聞く訳でもなく、俺と一緒に病院を出た。


「佐野君、帰りは?よかったら送ろうか?」

「いえ…、俺、バイクだから」

「そっか、僕の車あっちなんだ、じゃあね、佐野君」


職員用の駐車場へと踵を反し、歩き出した岡崎先生の背中に俺は。


「岡崎先生」

「何?」

「すみません、無理言って、今日は、ホントに、ありがとうございました」

「……佐野君」

「はい」

「奏ちゃんの記憶……、戻るといいね」

「……はい」

「じゃ、おやすみ」

「おやすみなさい」


岡崎先生の後ろ姿を見送って、バイクを停めてある駐車場へと向かいながら、雨があがっている事に気付く。


空を見上げてみると、薄れかけた雨雲の隙間から星が見えた。