「でも大変なのはこれからだな」

「何がですか?」


洋介さんは走り回るマサキ君を目で追いながら。


「病院内は障害者に優しく造られているけど、実際世の中に出てみると、ちょっとした段差や、乗り物や、今まで当たり前に出来ていた事や、何でもないことでいちいち立ち止まったり、物凄く時間がかかったり……」

「…………」

「そんな些細な事で、自分が障害者であると言う事を、嫌でも目の当たりるにするんだ」

「…………」

「俺は片足一本だけで済んだけど、マサキは下半身丸ごとだから、これから沢山乗り越えなくちゃならない。当たり前だった日常が、辛い現実になってくる」


………そうなんだ。


私、今までそんな考えた事も無かったけど、マサキ君にこれから降りかかる負担は、マサキ君自身が乗り越えて行かなくちゃいけないんだ。


「さっきの理学療法士の先生さ、俺のリハビリん時の担当だったんだ」

「そうだったんですか」

「うん。俺に車椅子バスケを勧めてくれたのも先生」

「あ、やっぱりバスケットやってるんですね」

「足を無くす前もやってた」

「……はい」

「足を無くして、もう跳ぶことが出来ないって思ったら、大袈裟かも知れないけど、もうなんの為に生きているのかわからなくなってさ、さっきのマサキみたいに先生に噛みついたりして、さんざん先生を困らせな…」


洋介さんにもそんな時期があったんだ……


「先生に初めてこの体育館に連れてこられた時……、久し振りにバスケットボールに触ってさ…、俺もさっきのマサキみたいに、子供みたいに号泣したんだ…」

「…………」

「久し振りに触るボールは、やっぱり懐かしくて、またコイツとコートの中を走り回りたいって、その時、強く思ったんだ」


………洋介さんは……


そんなに辛い過去を乗り越えてるからこそ、今のマサキ君の気持ちが痛い程にわかるんだ……