「…くっ!」
「よしっ!そのままの姿勢で身体ごと持ち上げろ!」
「くうっ!……んっ!はあっ!フンッ!」
「いいぞ!」
「うっ!おりゃあっ!」
「イエスッ!ひとりで乗れたじゃん!マサキ!」
「ははっ…!乗れた!」
「一度コツを掴めば、後は慣れるしかない、頑張れよ?」
「うん!」
洋介さんは椅子とマットを持ち出してきて、マサキ君と車椅子に乗る練習を始めかてから約一時間。
マサキ君はついにひとりで車椅子に乗る事に成功した。
下半身に全く力が入らないマサキ君は、両腕の力だけで身体を支えないといけないらしく、車椅子に乗るだけでもそれは物凄く大変な事みたいで。
それは私なんかが計り知れるものではないけど、汗だくになって頑張っているマサキ君を見ていると、胸が震えて目頭が熱くなってくる。
「マサキ君!頑張ったね!」
私はマサキ君に拍手を贈った。
「うん!乗れた!」
マサキ君は車椅子を動かすと。
「何これ?軽っ!」
「それは普通の車椅子と違って競技用だから、軽く作られてんの」
「マジッ?うひょーっ!軽ーい」
マサキ君は車椅子で体育館を走り出した。
「あまりとばすなよー」
「あはははっ!それ無理ー!」
洋介さんは呆れたように肩をすぼめて、私が座る床の隣に腰を下ろした。
「洋介さん、凄いです」
「へ?何が?」
「バスケットもだけど、マサキ君の事。理学療法室ではあんなに反抗的で攻撃的だったマサキ君なのに……、色々と、凄いです」
「ははっ、そんな大した事ないよ、マサキはただ、理不尽な事ばかりで、自分の思い通りにならなくて、ちょっと意固地になってただけ、元は素直なヤツだと思うよ」
洋介さんは目を細めながら、体育館を走り回るマサキ君を見つめていた。

