男の子はそのまま暫く無言で泣き続けていて。


洋介さんはそんな男の子の頭をずっと撫でていた。


私は体育館の隅に座り、こぼれる涙を抑える事が出来なかった。


男の子は多分中学生。


なのに一生歩けないと言う悲しい現実。


「お前、なんかスポーツやってただろ?」

「……短距離…」

「スプリンターか」

「うん…」

「また、走れるよ、マサキ」

「えっ?」

「ちょっと見てな」


洋介さんは立ち上がると再び用具置き場の中へ。


出てくると手にはバスケットボール。


タンタンとボールを床で弾きながら車椅子に近付くと、それを開いて腰を下ろした。


それは確か以前テレビで見た事がある、タイヤがハの字に傾いた、バスケット用の車椅子。


洋介さんはボールを膝の上に乗せると。


−−ギュワッ!!


物凄いスピードで車椅子を走らせた。


−−キュキュキュッ!ギャッ!


ほぼ直角に曲がり再び高速で走り出す。


向かった先にはゴールのリング。


洋介さんは走りながら両手でボールを掴むと、シュッと高くボールを放った。


ボールは綺麗な放物線を描きながらリングに吸い込まれる。


……洋介さん…、凄い…


落ちて弾むボールを片手でキャッチすると、マサキ君に向かって真っ直ぐ走っていく。


えっ?
危ないっ!
ぶつかるっ!


そう思った瞬間。


−キキキッ!ギュッ!!


マサキ君の側でクルリと向きを変えてピタリと停まった。


「……スゲー…」

「だろ?」

「焦げくせぇ…」

「はははっ!」


笑う洋介さんをぽかんと見つめるマサキ君。