「降ろせバカッ!この巨神兵!」
叫ぶ男の子を他所に洋介さんは病棟の外に出てしまった。
私はスリッパで少し躊躇してしまったけど、思いきってそのまま洋介さんに続いて外に出た。
総合病院の中庭は、芝生が敷き詰められていて、遊歩道や噴水やベンチなどがあり、そこは公園みたいに広々としていた。
噴水から立ち上るキラキラと光る水しぶき。
久し振りに感じる夏の風。
青い空と、眩しい太陽。
久し振りに感じる夏の大気が身体中に降り注ぐ。
暑くて眩しいけど、それはとても心地のいいものだった。
洋介さんの後に着いてやって来たのは、大きなドーム状の建物で、中に入るとそこは体育館。
洋介さんは躊躇いもなくそこに入ると。
「ちょっとここで待ってろ」
そう言って男の子を床に降ろすと、用具置き場へと入っていき、持ち出して来たのは。
1台の車椅子。
「乗れるだろ」
「……嫌味かよ」
「お前、脊髄か?」
「……………」
「そうか…、俺はほら」
洋介さんはさっきみたいにジーンズをたくしあげて、男の子に見せていた。
「だから何?でも動くんだろ?痛みを感じる事もできんるだろ?立って歩けるんだろっ?!」
男の子の悲痛な叫びに洋介さんは。
「ああ…、そうだな」
「俺はひとりで車椅子に乗る事すら出来ない!」
「うん」
「降りる事も出来ない…」
「うん」
「どんなに、頑張っても…動かないんだ…」
「うん」
「俺の足……もう…、一生…動かない…」
「うん」
「俺の足っ…こんなに…骨みたいにっ、細くなって…こんなのっ!俺の足じゃないっ」
「うん」
「もう……、走れない…うっ…走れっ、ない…んだっ…うぅ…」
男の子の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。

