「どなた……、ですか?」
「え?……、どなたって。俺だけど…」
「すみません、私…、あなたが誰なのか……、わからない、みたいです…」
「みたいですって……、どうしたの?奏ちゃん」
「あの…実は、私…」
私は今の私の事情を説明するために、理学療法室の隅にある長椅子へとその人を促し、事故にあってからの経緯を説明した。
「事故にあって入院したってのは、佐野から聞いてたんだけど…」
「はい」
「まさか…、記憶が…」
「……すみません」
「へっ?なんで謝るの?」
「覚えてなくて…」
「それは君のせいじゃないだろ?」
「でも…、申し訳なくて、ごめんなさい…」
「だから、謝らないで」
「はい…、ごめんなさい…、えっ?あっ!すみません!」
「ぷっ…あははっ!謝りすぎ、奏ちゃん」
「えっ!ごっ、ごめんなさいっ」
「しつこいって、あははっ」
「へっ?あっ!…あははっ……痛っ」
とても人懐こいその人に対する警戒心は全く感じられなくて、私も自分のやっていることが可笑しくて、思わず笑ってしまったら、脇腹に痛みが走った。
「わっ!大丈夫?奏ちゃん」
「いたた…、はい、大丈夫です、肋骨にヒビが入ってて…、笑ったりすると痛むんです」
「肋に…ヒビ…、ごめんね?知らなくて、佐野ってば入院したって以外の事はなんも教えてくれなかったんだよ…、俺が見舞いに行くって言っても、怪我に障るからって……でも、そんな事情になってたんなら、言いにくかったのかもな…」
「あの…、あなたの事、教えてください」
「俺は洋介、中村洋介だよ」

