「やだ、奏ちゃん、オカルトな話ならやめてよ」
「えっ?ち…違います、多分、夢です…」
「でしょうね、そんな話聞いたことないもの、はい。次は体温計りまーす……、っと、36.7℃…、よかった熱は下がったみたいね」
前田さんはカルテにそれを書き込みながら。
「熱は下がったみたいだけど、薬は処方された分はきちんと飲んでね?」
「はい」
「今日もいつもと同じ、午前10時からリハビリね、その前にお迎えが来るから、部屋に居てね」
「はい、わかりました。でも…あの、わざわざ迎えに来てもらわなくても、ひとりで行けます」
「ホントに?大丈夫?」
「はい。歩くだけならそんなに痛くはないし、少し位は動きたいかなって…」
「そうね、自分で行けるようなら、そうした方がいいかもね、でも無理はしないで」
「はい」
「それじゃ、お大事に」
前田さんが病室から出ていき、私は顔を洗うために、洗顔セットを出そうとベッドから降りた。
すると足元のベッドの下から赤い小さな物が目に入って、なんだろうかと摘まんで見てみると。
「ピアス?」
それは赤い石の小さなピアス。
誰のだろう?
医師や看護師さん達はピアスなんかは付けていない筈だから、成美さんの?
それとも美樹ちゃん?
病室は毎日掃除されているし、これがここに落ちたのは、昨日の午後以降って事だから、美樹ちゃんは昨日は来てないし、それは無さそう。
それとも、佐野君?
そうだ。
佐野君のだ。
佐野君は確か赤いピアスを数個左耳に付けていた。
間違いない、佐野君のだ。
こんな所に落ちてるんだもん、夢なんかじゃない。
昨夜この病室にやって来たのは、やっぱり佐野君なんだ。

