「……それは…、出来ないよ。でもどうして?」

「奏が……」

「奏ちゃん?奏ちゃんに会いに来たの?」

「………はい」

「だったら今じゃなくて、明日の面会時間内に来ればいいじゃないか」


−−ゴロゴロッ…


さっきよりも更に近付いてきた雷音がして、一瞬辺りは真っ白に。


「うわっ!びっくりしたぁ…」

「お願いです。奏に会わせてください、今行かないと…、きっと今頃、泣いてる…」

「…………」

「……お願いします」


頭を下げてるから岡崎先生の表情を伺い知る事は出来ないけど、きっと呆れたような表情をしているに違いない。


俺だってなんて馬鹿な事をしてるんだと思うけど、どうしても今奏に会いたい。


「………わかった、着いてきて」

「え?」


頭を上げると岡崎先生は背中を向けて歩き出していて、俺はその後に続いた。


「すみません、僕の親戚なんですけど、ちょと具合が悪くて…」


岡崎先生は夜間外来の窓口にそう言って、俺に中に入るように手招き。


「僕が診ますから、開いてる診察室使わせてもらいますね」


疑われる事なくすんなりと院内に入る事が出来た。


エレベーターで七階に上がり外科病棟の通路を歩いていると。


「ちょっとここで待ってて」


岡崎先生に言われその場でひとり立ち止まる。


「すみません、ちょっと忘れ物しちゃって」


先生は詰め所の窓口にそう声をかけて、ドアを開けると中に入ってしまった。


中に入る瞬間に指先で、あっちに行けと俺に合図を送ってきた。


今の内に行けって事か。


詰め所で看護師と何やら楽しげに話し出す声が聞こえてきて、俺は身を屈めて詰め所を通り過ぎた。


目指す先には【766】の病室。