「………そうだね」

「またやり直せばいいだろ、簡単な事だ」


初めから奏が俺の恋人だったなら、確かにそれは簡単な事だろう。


でも俺達はお互いに想いあっていてはいたけど、恋人同士なんかじゃない。


その想いあってた時間を奏が忘れてしまったんだ。


俺にとってかけがえのない3ヶ月間。


勿論やり直す気は有り余るくらいあるんだけど、毎日見舞いに行って奏の様子を見ているけど、やっぱり何処かよそよそしくて、俺を俺として認識してくれていないみたいで。


失ってしまった俺との時間は、もう奏には戻らないんだろうか?


こんな事ばかりを四六時中考えてしまって、今日もコップや皿なんかを割りまくってしまった。


……俺って。
相当メンタル弱いな……


「マスター、今日はホントごめん、割った分は給料から引いといて」

「あほか、お前がそんな事気にしなくていい」

「でも陶器やなんかも割ったし、あれって高いんだろ?」


マスターの奥さんの響子さんは、やきものや陶磁器なんかを趣味で集めているらしく、自身もかなりの目利きでもあるらしい。


響屋にも見るからに高そうな器を、幾つか置いてあるみたいで。


『居酒屋メニューは庶民的で美味しいんだけど、どれもあまり彩りが美しくないから、せめて器だけでも美しく』


響子さんがそう言っているのを聞いた事がある。


「ははっ。そんなに高いモンでもねえよ、そんなの店で使えるか」


つるつるのスキンヘッドを掌で撫でながら、笑ってみせるマスターに俺は、それ以上の事を言うのは躊躇われた。


響子さんもきっとマスターと同じ事を言うだろうけど、響子さんにも今度きちんと謝ろう。


「じゃ、気を付けて帰れよ?お疲れさん」

「うん。お疲れ、マスター」