一杯で止めるとか言いながら、結局恭介と二人して本格的に飲み始めてしまった様子。
俺は酒盛りを始めてしまった二人を他所に、店内の掃除を始めた。
「茜。掃除なんかいいから、お前もこっち来て飲め」
マスターはそう言うけど。
「俺はいいよ、掃除終わったら帰る、課題もやんなきゃだし」
「そうか…、じゃあせめてなんか食ってから帰れ、お前このところあんま食ってないだろ?顔色も悪いぞ?ちゃんと寝てるか?」
確かに飯を食っても旨くないし味も殆どわからない。
寝ようとしてもなかなか寝付けない。
「え?そう?はは、遅くまで課題やってるからだろ?それに飯はちゃんと食ってるよ」
「……茜」
「じゃ、俺、帰らせてもらうね、着替えてくるよ」
そう言って俺は厨房の奥の和室に下がった。
古びた畳の六畳の和室にはロッカーなんかはなくて、部屋の中央には今時見かけない丸い木製のちゃぶ台。
部屋の隅にひとかたまりにしてある洋服に着替えていると。
「茜…」
マスターが部屋の入り口に腰かけてきた。
「何?マスター」
「タクシー、呼ばなくて大丈夫か?」
「いいよ、明日俺休みだし、足がないと困る」
「そうか……」
「うん。ありがと、マスター、じゃ、お疲れ」
メットを抱えて部屋から出ようとすると。
「長い人生の中のたったの3ヶ月間だ、これからいくらでも取り戻せる、あまり落ち込むな…」
「……………」
たったの3ヶ月間。
……でも。
俺にとって、今まで生きてきた中で、最も大切な3ヶ月。
それが……
奏の心から抜け落ちてしまったんだ。

