恭介の話によると、アスカにカケルが自分の店で働いてくれと頼み込んできたらしい。


今まで仕事浸けだったアスカは、これから自分が何をやりたいのかを考える為にも、暫くはのんびり過ごすつもりだったらしいんだけど、どのみち、これから何らかの目標が出来たとして、大学なり専門学校なりに編入するにしても、金は必要になってくる訳で。


軽くバイトでも始めようかと思っていた矢先にカケルからのヘルプ要請。


奏が抜けてしまった穴は思いのほか大きいらしく、せめて奏が戻って来るまでの間だけでも店を手伝ってほしいと、あのカケルが珍しく裏表なしにアスカに頭を下げたらしい。


奏が事故にあった事には驚いていたけど、そんな奏の為にも、自分が役に立つならと快く引き受けたみたいで。


「ホントは、アスカちゃんに仕事なんかしなくていいよって、言ってやりたいんだけどな…、何せ俺もフリーターだし、情けないけどさ、ははっ…」


その気持ち。
スゲーわかるよ、キョンちゃん…


「キョン、アスカはこれからは自分の為だけに働けるんだぞ?お前がそんな事に気を使う程の事じゃない、お前は頑張って勉強して、もっと先の事を考えていればいい、アスカだってきっとそう思ってる筈だ」

「……頼りない男って思われてない?」

「頼りなくて当たり前だ、まだガキなんだから」

「えっ?マスター……、嘘でもそこはひとつ誤魔化してよ」

「嘘ついてどうする?ホントの事だ。それに女の方がしっかりしてる方が男女の関係は上手くいくんだ、お前もさっき似たような事言ってただろ?」

「……うん」

「アスカを幸せにしてやりたいんなら、今お前は何をするべきなんだ?」

「勉強……、かな」

「よくわかってるじゃないか、頑張れよ?未来の弁護士」

「うん。俺、頑張るよ」


お互いビール片手にカウンター越しに話す恭介とマスターの話を聞きながら、俺も自分が今何をするべきか考えてみたけど、何も思い浮かばなくて。


ハッキリとした未来のビジョンが想像出来る恭介が羨ましくてならなかった。


ただ、奏と一緒に居たい。


俺にはそんな子供じみた考えしか思い付かなかった。