時折マスターはこうやって早く店じまいしてしまう日がある。
こんな平日の雨の日は店を開けていても殆ど客なんか来ないし、近辺の何処の店も似たようなもので、疎らにしか灯りが灯らない夜の繁華街は、空車のタクシーだけが路肩に行列を作る。
時計に目をやると、まだ22時を回ったばかり、いつもならほぼ満席に近い状態なのに、店には俺達三人だけで、狭い店内がやたらと広く感じてしまう。
恭介はマスターからジョッキを受け取るとそれを一気に飲み干し。
「っかーー!うめー!夏はやっぱビールだよなー」
口に白髭を作り、仕事帰りのサラリーマンのような台詞を吐く。
「俺は年中ビール派だけどな」
「ビールばっか飲んでると腹が出るよ?」
「言うな、これだけが楽しみなんだから」
「うわあ、何?そのオッサンみたいな台詞」
「もう十分オッサンだ」
「あ。開き直ったよ、この人」
「悪いか?」
「あんまメタボったら成人病とか患(ワズラ)うよ?まだ綾香ちゃん小さいんだから」
「う…、響子と全く同じ事言うなよ」
「自重しろって事、響子さんだって心配して言ってんだよ」
「そうか?最近はガミガミ口うるさいだけだけどな」
「女は母親になると色々と強くなるんだよ、うちのかーちゃんもそうだったよ、とーちゃん居なくなってからはとくに……、だから、健康には気を付けないと、少しでも長生きしないとね、二人が大事なら尚更ね」
「………そうだな…、ははっ。まさかキョンに説教されるとはな、今日はコレ一杯で止めとくよ」
「素直でよろしー。俺はもう一杯!」
「あっ!お前、人に説教しといて」
「あははっ。それはそれー、これはこれー。マスターおかわりっ!」
笑うと恭介はジョッキを持ち上げマスターに二杯目を催促。
マスターはやれやれといった感じで立ち上がると、ジョッキを受け取りビールを注ぐ。
「なぁ、茜」
「ん?何?キョンちゃん」
「奏ちゃんさ?バイトどうすんのかな?このまま辞めたりしないよな?」
「どうだろ?それは俺にはわかんないよ、でも、何で?」
「あー…カケルさんがさ…」

