普通だったら、素直に受け取って、その場から立ち去るべきなんだろう。



父親に完全に信頼されている佑樹。



ここに居て何の違和感もなく、奏の側に居ることが出来る佑樹。



俺じゃなくて……



「……すみません、ホントに…、いいですから…、行こう、美樹ちゃん…」



少し、頭を冷やそう……



美樹を促しその場から離れて戸口に向かう。



佑樹の横を通りすぎて、通路に出るとその時、検査室の病棟の扉が開いてベッドが運ばれてきて。



「奏っ?!」



俺はそのベッドに駆け寄った。



「………奏…」



青白い顔は変わらなかったけど、とにかく無事だった事が嬉しくて、その頬に手をあてようとしたら。



「触るな」



佑樹に腕を掴まれ、それが出来なかった。



「奏の事は感謝してる…、けど、お前がここに居る理由はもう無いだろ?」



佑樹の言葉に反論する事が出来ない。
端から見たら俺は奏のただのクラスメートでしかない。



……帰れって、事か。



「奏っ!」



父親が戸口から走り寄ってきて、俺は佑樹から腕を引かれてベッドから離される。



「奏……、奏…」



奏の顔を見つめながら奏の名を呼ぶ父親に医師が。



「奏さんのお父様ですか?」


「はい。奏は…、娘はホントに大丈夫なんですか?」


「ご心配いりませんよ、お父さん、奏さんを病室に移してから詳しくご説明しますから」



奏を寝せたベッドが動き出し、父親もそれに続いた。



「それじゃ、佐野…」



佑樹はそう言い残し俺の腕を離すと、当然のように父親の後ろを付いていく。



追いかけて、奏の側に居たいのに。



それすらもする事が出来ない俺は、ただそこで、病室に移される奏を見送る事しか出来なかった。