「おじさん……」
「奏はっ?!大丈夫なのか?」
奏の……、父親。
「頭に5センチ程の傷が出来てるらしいけど、CTの検査では脳や内蔵には出血は見られなかったって、あとは肋にヒビが…、でも、命に別状はないらしいみたいだから、取り合えずは、安心して。おじさん」
「……そうか…、よかった…」
奏の父親は佑樹の両肩に手を置いたまま、安心したのか、うつ向き、深く息を吐く。
「………君達は?」
父親は俺と美樹の姿が目に入ったらしく、こちらに視線を向けてそう聞いてきて。
「……あ。かなちゃんのお父さん、ですか?あたし、美樹です…」
「ああ、美樹さん?奏がいつもお世話になってるね?」
「いえ……」
「それと…、君は?」
父親は俺を見て明らかに驚いている様子。
それも仕方ない。
俺のシャツは奏の血がこびりついてるんだから……
「……俺は」
「彼は佐野君。奏のクラスメートだよ。彼が偶然事故現場に居合わせて、救急車を呼んでくれたんだよ、おじさん」
言いかけた俺を佑樹が遮った。
「そう……だったのか、だからシャツに血が…」
父親は佑樹の肩から手を離すと、俺に近づき上着の内ポケットから財布を取り出し、その中から1万円札を数枚引き抜くと。
「すまなかったね、制服…、コレで新しいの買って。お礼はまた改めてするから…」
その金を俺に向けて頭を下げる。
「………いりません…」
「え?」
「制服の代えなら、ありますから……」
「…でも」
「佐野。遠慮しないで受け取れば?」
佑樹が俺に向けてそう言ってきて。
「うん。君が奏を助けてくれたんだ、だから、受け取ってほしい」
「だから!いらないって!」
俺は声を荒立ててしまった。

