医師の言葉に俺は身体中の力が抜けそうになった。
………奏。
よかった………
「そうですか…、ありがとうございます」
「いえ…、もう少し落ち着いたら病室に移しますから、その時にまた」
医師はそう言うと待合室から居なくなり、その場には再び俺達三人に。
「………かなちゃん、よかった…」
美樹は安心したのか、長椅子にへたりと座り込み。
「取り合えず…、佐野君、着るもの……、どうにかしないとね?拓也に連絡してみるね?」
「え?あ…、うん…」
奏が無事でホントによかった。
でも……
今佑樹が言った言葉が頭の中で繰り返される。
………婚約者。
今そんな事考えてる場合じゃないって事はわかってる。
何より奏が無事だった事の方が大事なんだけど、俺の中の嫉妬や独占欲や、醜い感情が再び芽を出し。
「婚約者……、ってなんだよ?」
口に出すつもりなんて無かったのに、俺の意識とは裏腹に、口が勝手に開いてしまった。
佑樹は戸口に立ったまま。
「別に、言葉通りの意味だけど?」
「自分で勝手にそう言ってるだけじゃないのか?」
「何でそう思う?」
「質問で反すな、俺が聞いてるんだ」
俺は佑樹を真っ直ぐ見つめ。
「何でお前にいちいち説明しないといけないんだ?お前には関係ない話だろ?」
「関係ない……?」
「ああ、佐野には関係ない。婚約は俺と奏。二人で決めた事だ」
「お前が無理矢理奏にそう押し付けたんだろうがっ!」
「佐野君っ!!」
俺が佑樹にそう言って立ち上がると、美樹が俺の腰に腕を巻き付けてきた。
「ここ病院だよ!落ち着いて!」
「佑樹君っ!」
美樹の声と同時に男の声がして、男は戸口に立つ佑樹の肩を掴み。
「奏はっ?!」

