「佐野君っ!」



検査室の病棟の待合室で奏の検査が終わるのを長椅子に座って待っていたら。



「美樹ちゃ……」



顔を上げた俺に真っ先に近付いて来たのは。



「佐野……、どう言う事だ?」


「……佑樹…」


「何でお前が…、ここに居る?」


「それは……」


「その血……奏のか?」


「……これは」


「お前のせいで奏は事故に遇ったんじゃないのか?!」


「……………」


「答えろよっ!佐野っ!」


「佑樹君!やめてっ!」



掴みかからんばかりの勢いで俺に捲し立てる佑樹との間に美樹が入り込み。



「佐野君は偶然その場に居合わせただけなんだよ!救急車呼んでくれたのも佐野君」


「……偶然?……、美樹ちゃんがその場に居た訳じゃないのに、何でわかるの?」


「そう…、佐野君から、聞いたから…」



俺の目の前には美樹の背中。
今の佑樹の表情を伺う事は出来ないけど、恐らく美樹の言う事に訝しげな表情を見せている筈。



………佑樹の、言う通りだ。
俺が…、居なければ………



「奥村さんのご家族の方は…」



待合室の入口にさっきの若い医師が立っていて、佑樹は入口に移動して、医師に近付いていき。



「僕です」


「ご兄弟の方ですか?」


「いえ、違いますけど、彼女は僕の婚約者なんです」



…………婚約者?



「彼女の父親には連絡しました。直ぐに駆け付けると思います、それで……、奏はどうなんですか?先生」


「CTの検査では脳内や内蔵などの出血はみられませんでした、頭部の外傷は5センチ程で、傷を縫合しました。他には肋骨に多少のヒビが入っています」


「……他には?」


「親御さんが来られたらまた詳しく説明しますが、大丈夫ですよ。心配いりません、命に別状はありません」