「すみませ……わ…わたし…」




気付けば俺達の側に母さんと同じ歳位の女が立っていて、泣きながら俺達を見下ろしていて、俺と同様ガタガタと震えていた。




「よそ見……して…、気付いたら…歩道に…ご…、ごめんな…さ」




奏の事で頭が一杯だった俺は、聞こえてくる声に答える余裕なんか無くて、ぐったりと力が抜けてしまった奏を支えるのが精一杯だった。




「……これ…あなたの…携帯…わたしが…救急車に…説明、したから…」




女は俺に携帯を差し出すと。




「こっちは…その子の…携帯…、わたしが…車で、潰した、みたいで…」




もうひとつ、へしゃげて潰れた携帯も一緒に差し出す。




「っ…本当にっ…ごめんなさいっ…」




女はそのままへたり込み、ひたすら俺に謝った。




そんな女を見ているうちに、俺は次第に周りの様子が伺えるようになってきた。




奏の呼吸を首筋に感じながら周りを見てみると、歩道に乗り上げられた黒いワゴン。




中身が飛び散って道路に投げ出された奏の鞄。




こちらを伺うように見ている通行人。




女から渡された二つの携帯。




遠くから、救急車のサイレン。