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一瞬の出来事だった。



奏の後ろから走って来る、黒いワゴン車が歩道に乗り上げ。


そのまま…、奏の身体を………


弾き飛ばされた奏はそのまま後ろに倒れ込んだ。




「かなでっっ!!」


声が裂けんばかりの叫びを上げて、倒れた奏の元へと走る。



何でもっと早く走れない!
俺の足!!



「奏っっ!!」



やっと奏の元に走り寄り、その顔を覗き込む。



「奏っ!」



縁石に頭を打ち付けられたのか、その白い顔に、首筋に、赤く流れる幾つもの筋。



「奏っ!大丈夫かっ?!直ぐに救急車呼ぶからっ!」



ガタガタと震える手で携帯を取り出す。



「さの……くん…あの…ね」


「喋るなっ!じっとしてろっ!」


「…きーて…さのく」


「いいからっ!黙ってろ!」



一刻も早く救急車を呼ぼうとするけど、視界はぼやけ、手は震え、上手く携帯を扱えなくて、気が狂いそうなもどかしさの中、何とか119のボタンを押した。



「東区!区立体育館!早く!早く来てくれっ!奏がっ!」



向こうが色々と聞いてくるけど、俺はそんな事に答える余裕なんかなくて、場所だけ伝えて携帯を投げ捨てた。



「……さの…くん」


弱々しい奏の声がして。


「今救急車呼んだから!」


「なか…ないで…」



ぼやける視界から奏が手を伸ばすのが見えて、その手をギュッと掴んで頬にあてる。


「奏っ……、大丈夫だ、大丈夫」


「さの…くん…」


「何?……」


「あ……、めりか…」


「アメリカ?」


「ばすけっと……」


「何言ってる?アメリカへは行かないって…」


「ばすけっと……やめちゃ…だめ…おねが、い…」


「わかった、わかったから…、もう喋るな…」


「よかっ、た……、やくそく、ね?」


「奏っ!」



動かさない方がいいってわかっていながら、俺は奏の身体を起こして抱きしめた。



奏……


奏っ!!


奏っ!!!