「かして」


俺は鞄を肩に担ぎ、沢田の手からノートをヒョイと奪った。


「え?持ってくれんの?」

「うん。重いだろ?」

「うわっ。佐野君、やっさし−!」

「そこまで驚く?俺はいつだって優しいぞ?職員室?」

「うん。教科ごとに振り分けなきゃだから、あたしも着いてくよ、ありがと佐野君、行こうか?」

「うん」


チラリと奏を見るけど、奏は今だうつ向いたまま。


俺は深く息を吐いて沢田と廊下を歩き出した。


「どしたの?佐野君。なんか元気無いよ?」

「…別に…、普通だよ」

「そう?なんか元気無いっぽかったから」

「あ−、あれだ、勉強のし過ぎ」

「だよね−…、課題多すぎ、せっかくの夏休みなのにね」

「ははは。そうだな」


話ながら廊下を歩いていると、貴司が一人でこちらに歩いてきていて、沢田の動きが一瞬止まる。


「あれ?茜?もう帰るの?」

「貴司、丁度よかった。コレ職員室まで。お願い」


俺は持っていたノートを全部貴司に差し出した。


「ちょ…やだよ」

「あの浴衣美人、誰だか知りたくない?」

「お前知ってんの?」

「さあ?どうだろ?」


俺は否定とも肯定ともとれない曖昧な返事をして貴司にノートを渡すと、立ち止まったままの沢田に耳打ち。


「デートの約束位、したら?」

「はっ?何言って…」

「せっかくの夏休み、もう少し進展しなよ」

「進展って…」


沢田は途端に真っ赤になって。


「お前ら、何コソコソ話してんの?やらしーな…」

「やっ…、やらしくなんかないっ!」

「顔、真っ赤だぞ?ひょっとしてお前、茜の事が好きなんじゃ…」

「はっ?ちちち違うしっ!あたしが好きなのは宮地だもんっ!」

「………は?…、お前、俺が好きなの?」


突然の告白に驚いたけど、俺よりも驚いたのか沢田は。


「えっ?……いっ…、いやあぁぁあぁーーっ!!」


頭から湯気が出るんじゃないかと思う位にさらに真っ赤になって、悲鳴をあげながらその場から走り去ってしまった。