「……佑樹」


奏が戸口に目をやると佑樹はこちらに近付いて来て。


「今日は?バイト?」


奏の机の横に立つ。
つまり俺との間。


「うん……」

「殆ど毎日バイトだな?」

「今…、忙しいから……何?佑樹」

「こないだ話した別荘に行くって話」

「……うん」

「バイトは休めよ?」

「わかってるよ…」

「それと二人だけで行く事になったから」

「え?……、おじさんとおばさんは?」

「仕事が忙しいらしい、奏んとこのおじさんも忙しそうだし、今年は俺達二人で行こう」


………別荘?
二人で?


「……二人で……、あのね?佑樹…」

「何?」

「おじさん達が忙しいなら、無理して行かなくても…」

「何だよ?行きたくないのか?」

「そんな事、無いけど…」


佑樹の背中に邪魔されて、奏の表情を伺い知る事は出来ないけど、その声色からして恐らく酷く困っている表情をしているに違いない。


二人で別荘って………


俺はどうしようもなく複雑な気持ちになって、この場に居るのさえ辛くなってしまっていた。


「最近奏はバイト。俺も勉強と生徒会で二人で出掛ける事が少なくなってただろ?」

「……そうだね」

「だから久しぶりに二人でのんびり過ごそう」

「…うん」

「じゃ、俺今から生徒会だから、文化祭の予算案、会計と一緒にたてないと…、同じ机に向かうなら図面引いてたいよ…はは…」

「大変だね……」

「出来る事なら誰かに代わってもらいたいよ……、ね?佐野。俺と代わってくんないかな?」


突然俺に話を振る佑樹に心の内側を見透かされた気がして。


「は?何?いきなり…」

「いや、生徒会長って色々めんどくさくてさ、自分の彼女ともゆっくり出来ないし」

「俺が、知るかよ…」


これ以上聞きたくなかった。


俺は鞄を掴むと立ち上がり。


「じゃあね。奏」

「あ……、うん。さよなら。佐野君…」


奏は俺を見ないでうつ向きそう言って、俺はその表情を見る事が出来なかった。