鼻の奥がツンとしてきて、慌て頭を振る。


泣いたりなんかしたらダメ。
佐野君の為に決めた事なんだから。


携帯を持ち直して再びお父さん宛にメールを作成し送信して、携帯をリュックに押し込めた。


お父さんだって私が居ない方が気兼ねなく成美さんを自宅に呼ぶ事だって出来る。


恐らく昨晩もそうだったに違いない。
だからダメなんて言わない筈。
もう色々と考え込んでしまったら、余計に泣きたくなってくるから。


もう一度二三度頭を振り立ち上がる。


佐野君の部屋から出ると、隣の静さんの部屋から何やら楽しげな声。


そう言えば美樹ちゃんはまだ静さんの部屋かな?


静さんの部屋をノックして中に入ると、そこにはいつかの佐野君みたいに、静さんから髪をカットしてもらっている美樹ちゃん。


「わあ、美樹ちゃん、カットしてもらってるの」

「あ。かなちゃん、うん。そろそろ切りたいなって思ってたから丁度よかった」

「美樹ちゃんはショートが似合うよ、髪質が茜と凄く似てる、はは」

「あたしクセッ毛嫌なんですよね〜…、かなちゃんみたいにサラサラのストレートのロングに憧れちゃう」

「そんな事ないよ美樹ちゃん、私の髪なんて纏まりにくいし、美樹ちゃんみたいなふわふわの髪に私もなりたかった」

「でも伸ばせないんだよ、伸びたら横に広がって爆発したみたいになるんだもん…、て、拓美ちゃんは?トイレ行くって下に降りたんだけど」

「あー…、それがね?」


宴会が始まってしまった事を美樹ちゃんに告げると。


「何?宴会?部長の俺を差し置いて……、美樹ちゃん、早く終わらせて俺達も参加しよ」

「はいっ♪お兄ちゃん♪」


美樹ちゃんに今日まで泊まる事を話して、私は部屋を出ると、お母さんが階段から上がって来るのが見えて。


「あら、奏ちゃん。おうちにはもう連絡した?」

「はい」

「そう、あ。ちょっとわたしのお部屋に来ない?」

「え?…、はい」


お母さんに促され、廊下の一番奥にある、淡い水色で統一された部屋に通された。