佐野君の部屋からおばあちゃんの家に電話をかけようと。
リュックから携帯を取り出して、アドレスを開き発信ボタンを押す。
四五回程コールすると。
『はい。岩澤です』
電話に出たのは洋介さんだった。
「洋介さん?こんばんは。奏です」
『あ。奏ちゃん、こんばんは。どうしたの?もう帰ってきた?』
「いえ…、あの、それが実は…」
今夜は帰れそうにない事を洋介さんに説明すると。
『酔ってる?何やってんだ…、佐野の奴…』
「ごめんなさい…」
『ははは。奏ちゃんが謝る事ないよ、で?黒助の事だろ?』
「はい。出来ればもう一泊…預かって頂ければと…」
『うちは全然酔わないよ?あ。一応ばあちゃんに代わるから…、ばあちゃん。奏ちゃんがもう一泊するから黒助預かって欲しいって…』
言いながら洋介さんはおばあちゃんと電話を代わり。
『奏ちゃん?』
「あ。おばあちゃん、こんばんは」
『こんばんは。シロちゃんいい子にしてるわよ、今日で帰っちゃうから寂しいって、さっき洋介と話してたのよ?うちは何日でも預かって構わないから、気にしないで?』
「ありがとう。おばあちゃん」
『ふふふ。こちらこそありがとう、うちのハルも喜ぶわ、ホントに二人とも仲良しだから』
電話越しに微かに二匹の鳴き声が聞こえてきて、仲良くじゃれあっている姿が想像出来る。
シロは佐野君も私も居ない時は、あのアパートにひとりぼっちだもんな……
きっと凄く寂しい思いをさせている筈。
私が帰った後、夜遅くにしか帰って来ない佐野君をひとりぼっちで毎日待っているんだろうな……
まだ仔猫なのに。
もしかしたらシロは……
おばあちゃんちで暮らした方が幸せなんじゃないだろうか?
佐野君がアメリカに行ってしまったら……
私が…、引き取る訳にもいかないし……
………私。
先の事も考えず…、無責任に自分の我が儘で、仔猫のシロにまで嫌な思いをさせてしまってる。
ごめんね……、シロ。

