「気分悪いって、大丈夫か?」


言いながら奏に近付きその顔を覗き込む。


「大丈夫だよ。風にあたって随分良くなったから、ごめんね?心配かけちゃって、もう試合終わっちゃったんだ…」

「うん。さすがに疲れた、遊びすぎたな。はは…、奏も疲れてるだろ?早く帰ろ」


奏の手を取り歩き出そうとしたら。


「あのね。佐野君、流れ星がね?沢山見れたんだよ」

「流れ星?」

「うん。続けて何回も」


ああ。
だから上を見上げてたんだな。


「願い事、出来た?」

「うん」

「そか、よかったな」

「うん……」


再び夜空を見上げる奏。


俺も同じように見上げてみる。


七夕はもう終わってしまったけど、そこには溢れ落ちてきそうな程の天の川。


「ここは星が近いね」

「屋上だからな」

「ふふ…。そうだね」

「行こうか?」

「うん」


屋上を後にして、校舎の廊下の窓から射し込む月明かりの中を奏と二人歩いていく。


「遅くなっちゃったな」

「佐野君、お腹空いたでしょ?」

「うん。もうペコペコ…、晩飯何かな?」

「お母さんのお料理はどれも美味しいもんね」

「いや、奏の飯の方が旨い」

「ふふ。ありがと」

「お世辞じゃないぞ?」


誰も居ないひっそりとした夜の校舎は話し声がよく響く。


「あ。窓が、閉め忘れかな?」


二階まで下りた所で、廊下の窓がひとつだけ開けっぱなしになっている事に気付いた奏は、窓を閉めようと窓枠に手をかけた。


潮風が窓から入り込んできて、奏の黒髪がさらさらと風に揺れ、華奢な肩が露になって。


自然と手がそれに伸びてしまって、奏を挟んで窓際に立つ。


「さ…、佐野君?」

「ん?」

「窓が閉められないよ」


気付けば後ろから抱きしめてしまっていた。