体育館で一際大きな歓声が聞こえる。
「やっぱ佐野先輩のダンクスゲー!」
そんな声が耳に届いて、私は慌てて顔を水でバシャバシャと洗い流した。
泣いたりなんかしちゃダメだ。
佐野君が心配しちゃうし、何で泣いてたの?って聞かれたりしたら困る。
私は瞼が腫れてしまわないように、何度も何度も掌で水をすくっては顔を冷やした。
気付けば辺りは薄暗くなりかけていて、空を見上げて見ると、夕暮れの空から星空に変わろうとしていた。
さっきまでの暑さも少し和らいで、運ばれてくる潮風が私の濡れた顔をなぞっていき、涙で熱を持ってしまった瞼を次第に冷ましていってくれる。
そうだ。
屋上に行ってみようか?
あそこなら風も強いし。
試合は見ていたいけど……
戻って佐野君の姿を見るとまた涙が出てしまうかも知れない。
蛇口を捻り、水を止めると私は屋上へ行くために校舎の中へ。
勝手に入ってしまってちょっと気が引けるけど、屋上へと続く階段を上っていく。
扉の前に来て、佐野君がやっていたようにドアノブを強く引っ張ると扉は簡単に開いて、開いた隙間からピュウっと音を経てて潮風が入り込んできた。
外に出ると茜色の水平線が広がっていて、真っ赤な太陽が丁度海に沈みかけている所だった。
「わあ…、キレー」
そのあまりにも美しい光景に、思わず呟いてしまう。
手すりまで歩いて行きそれを掴んで、ゆっくりと沈んでいく太陽に見とれてしまっていた。
夕陽って、佐野君みたいだな。
大きくて、あったかくて、茜色で。
そう言えばここで佐野君に好きって告白されたんだ。
凄く、嬉しかったな。
私も、佐野君の事、大好きだよ。
この気持ちを佐野君に教えてもらっただけでも、私には十分すぎる。
これ以上は望めない、だからせめて、佐野君を私と言う足枷から自由にしてあげないと。
この美しい夕陽みたいに佐野君は誰よりも輝ける筈だから。

