佐野君は仰向けで腕を枕に長い足を組むと、私の目の前には佐野君の膝の手術の痕。
何度も見たことがあるけど、何度見ても痛々しいな。
そっとその傷痕に触れてみる。
「…何?…、手術の痕…、気持ち悪いだろ?」
「ううん、そんな事ないよ…」
この傷痕がなかったら佐野君とは出逢ってなかったんだろうなと思うと、不謹慎だけどこの傷痕がたまらなく愛しいものに感じてしまう。
佐野君はこの怪我なんかしなければ今頃は、きっとここには居ない……
沢山の人達の観衆を浴びて、誰よりも輝いている筈。
「………、そんなに触られると…、変な気持ちになるんだけど…」
気付けば私は佐野君の傷痕を何度も指先でなぞってしまっていて、慌てて指を引っ込めた。
「ごっ、ごめんねっ、くすぐったかった?」
「いや?気持ちよすぎて、ヤバかった」
「……気持ちいいって、佐野君…」
「はは。冗談…」
そう言って佐野君は一度身体を起こし、私の膝に頭を乗せて再び横なってしまった。
「こっちのが何倍も気持ちいい……」
「そのまま寝ちゃっていいよ」
「重くないか?」
「ううん、平気」
「そっか、じゃ、ちょっとだけ寝る…重くなったら…、起こして、いいから…」
佐野君のふわふわの髪が下腹部に当たって少しくすぐったい。
その髪に指を差し込んで佐野君の頭を撫でていると、佐野君は目を閉じて、次第に静かな寝息をたて始めた。
それと同時に私の心の奥に締め付けられそうな感情が溢れだしてくる。
……佐野君。
私……、佐野君の事が愛しくてたまらない。
この気持ちを封印しなくちゃいけないんだ……
物凄く、辛いけど……
佐野君の為にも、このままじゃいけないんだ。
私と出逢ってしまって、佐野君は立ち止まってしまったけれど。
佐野君はこんな所に居るべき人じゃない。
その背中を押してあげられるのは、自惚れかも知れないけど、多分、私しか居ないから……

