「こら。動くな、字が歪む」

「…だって、こそばゆいんです…」

「我慢しろ、もうすぐ終わる……、っと、よし。出来た」


マサトを最後にバスケ部全員の腕に[victory]の文字を書き終えて。


「よし。全員終わったな、飯食うぞ!俺の奢りだ!」


先生の一言に後輩達は。


「やりぃ♪」
「腹へったぁ!」
「俺っ、焼きそばっ!」
「カレーっ!特盛っ!」
「俺はメガ盛りっ!」
「テラ盛りっっ!」


一斉に海の家へと駆け出して行ってしまった。


「先生、あいつ等の胃袋底無しだよ?大丈夫?」


そう言って隣に座る先生の財布の中身を心配して目配せすると。


「独身彼女無しだ、小遣いには不自由してないよ、ははは」

「…先生、そこ笑うとこじゃないから」

「ま、あいつ等の世話が忙しくて、そんな暇が無いと言うのが本音だがな」

「……、嘘つけ」

「ん?何か言ったか?茜」

「いえ、何も…」

「さ、飯食うか?君達も一緒においで、ご馳走するから」


先生はえらく上機嫌で、座って俺を待っていてくれた奏達にも飯を奢ってくれるつもりらしい。


その言葉に甘える事にして、先生の後について海の家へと入ると、後輩達で賑わう海の家はうるさい程で。


「コラッ!お前ら騒ぐなっ!他の客に迷惑だろ!」


そう言う先生の声がいちばんうるさいから。


ほら、注目浴びちゃっただろ?
ただでさえ先生はデカいのに。
(俺もだけどね?)


「佐野先輩!こっち、空いてます」


手を上げるマサトの方に移動すると、奏はマサトの隣に座り、俺は奏の向かい側。


皆カレーを注文して、ガツガツとマサトは犬食いでカレーをたいらげていく。


ははは。
俺もこの頃はこんなんだったな。


「ふふふ、マサト君、頬っぺにカレー付いてるよ?」

「ふぇ?」


奏はクスクスと笑いながら、肩から羽織ったバスタオルの端を摘まんでマサトの頬を拭ってやり、マサトもそれが当たり前のように顔を奏の方に向けていた。