一瞬身体がふわりと宙に浮いたような感じがしたけど、でもそれは気のせいで、その一瞬の浮遊感も下に踏みしめるものが無くなると、地球の重力に逆らえる筈もなく、落下するのは自然の摂理。
足元から海面にザブンと飛び込むと、身体が水中深く沈んで行く。
目を開けて上を見上げると、太陽の光を浴びてキラキラと輝く海面をバックに、両足揃えて身体をくねらせ、俺に向かって手をさしのべる奏。
人魚みたいなその姿があまりにも綺麗で、手を伸ばし、その手を掴み思いきり引き寄せ、抱きしめながら奏の唇を自分の唇で塞ぐ。
奏は驚いたのか、一瞬だけ身体を固くしたけど、次には俺の背中に手を回してきて。
海の中、ひとつに重なり合って漂う。
……このまま…
海に溶けてしまってもいいな……
なんて。
そんな甘い時間がいつまでも続く筈もなくて、次第に息苦しくなってしまって。
慌てて海面へと上がって、お互い同時に顔を出し、肺に溜まった二酸化炭素を吐き出して、大きく息を吸い込んだ。
「おりゃあぁぁぁっ!!」
「きゃあぁぁぁぁっ!!」
頭の上から叫び声がして見上げてみると、拓也が美樹を抱えて頭から飛び込んで。
−−バシャアッ!
俺達の数メートル先に落下。
程なくして顔を出すと。
「…ぶはぁっ!あははは!超おもしれ〜!」
「…ハアハア…、こっ、怖かった、死ぬかと思った…」
拓也の肩に必死にしがみつく美樹。
奏も器用に立ち泳ぎしてないで、遠慮なく俺にしがみついていいんだぞ?
奏はそんな俺の胸の内なんか知る筈もなく、次々に後輩達と飛び込んではまた登り、を繰り返す始末。
岩場の下で腰掛け、ふて腐れていると美樹が。
「佐野君、かなちゃんとられちゃったね?」
「……ほっといてくれ」
「言えばいいじゃない、他のやつと飛び込むな。って」
後輩に妬きもち妬いてるなんてみっともないだろ?
「奏が楽しいなら、いいよ別に…」
「強がっちゃって、素直じゃないわね。あ。佐野君、あたし今朝聞いちゃった」
「は?…、何を?」
「『奏、愛してる』きゃっ♪」
………この、狸が…

