「マサトー!早く来ーいっ!」


下からリョータの声がして。


「むっ…、無理です〜っ!」

「お前以外全員飛び込んだぞ!お前それでもバスケ部かっ!」

「飛び込みとバスケは関係無いでしょっ?」

「うるさいっ!とにかく翔べ!部長命令だ!」

「そんなぁ〜…」


内股で、足が小刻みに震えて消え入りそうな声のマサトはじっと下を見たまま中々飛び込めないでいた。


そんなマサトに俺は。


「……押してやろうか?」

「ひっ!やっ、止めて下さいっ!自分のタイミングで飛びますっ!」

「飛ぶなら早く翔べ、後がつかえてんだから」


全く情けない。
たかが推定7メートル位……


マサトの後ろから下を見てみると。


……結構…、高いな……


「マサト君、私と一緒に行こう!」


言うと奏はマサトに抱きつき。


「えっ?…っ!ちょっ?…うわっ!」

「はあっ?!奏っ!」

「えいっ!」


俺の視界から姿を消した。


慌てて下を見てみると、奏とマサトは抱き合ったまま、ザバンと水しぶきを上げながら、水中に沈んでしまった。


「奏っ!」


奏とマサトは直ぐに浮上し顔を出して。


「あははっ。マサト君翔べたね!佐野君も早くおいでよ〜!」

「はいっ!佐野先輩、俺翔べましたっ!」


今だ抱き合ったまま俺に向かって無邪気に手を降る二人に顔が引きつる。


そりゃないだろ奏?
俺を差し置いてマサトと飛び込むなんて。


しかも抱き合って……

マサトに抱きつかれるのは恥ずかしくないのか?

俺がやると恥ずかしがる癖に……


多分奏に悪気は無いんだろうけど。


…いい加減マサトから離れてくれ。


「奏さんっ!次っ!俺と一緒に飛んで下さいっ!」

「うん。いいよ」

「やりぃ!」

「ああっ、ズルいぞユウト!奏さんっ、俺も!」


次々に奏に群がる後輩達に、俺の我慢も限界に。


せっかく奏と泳ぎに来たのに、あいつ等に奏を取られてたまるか。


数メートル程後退り、助走をつけて勢いよく岩場からダイブした。