海の家に入ると砂がザラザラとした板張りの床に、沢山の長机が並べられていて、先生の姿を探して大勢の人達で賑わうその広い空間を見渡した。


私に気付いた先生は軽く手を上げて、私は先生が座る机に向かい、その正面に腰を下ろす。


「勝手に注文したよ、烏龍茶でよかったかな?」

「はい。あの、おいくらですか?」

「ははは、いいよ、烏龍茶位」

「ありがとうございます、いただきます…」


目の前に置かれた紙コップに入った氷入りの烏龍茶を両手に持ち、コクリと一口飲むと、冷たい烏龍茶が喉を通って、少し緊張していた私の乾いた喉を潤す。


「ホントはこんな所じゃビールでも飲みたいんだけどね?残念ながらそうもいなかい、ははは」


先生はそう言って笑うと紙コップに入ったアイスコーヒーををごくごくと飲み干した。


「少し位なら飲んでも大丈夫なんじゃないですか?」

「いやいや、今これでも勤務時間内だから…」

「え?今日は日曜日ですよ?」

「あいつ等引率してるから、校外学習になるんだよ」

「あ…そうですよね?学校の先生って色々大変そう…」

「そうなんだよ、あいつ等言う事聞かなくて、もう大変、ははは」



そう言って笑う先生は言ってる事とは裏腹に、凄く楽しそうで、私もそんな先生につられて笑いが溢れてしまっていた。


先生はホントに生徒思いのいい先生。


「奏さん…」


ふと、笑いを止めた先生は机の上の空になった紙コップを、指先で玩びながら徐に口を開いた。


「…はい」


私は返事した途端にまた喉が乾いてきて、烏龍茶を一口飲んだ。


「茜の事なんだけど…」

「……はい」

「アメリカ行きの話…君からも説得してくれないか?……」

「……………」

「本当は…、こんな事、君に頼むのは酷かも知れないと言う事は重々承知してるし、これを茜に知られたら、あいつは腹を立てるだろうと言う事もわかってる。

実は今朝も茜にこの話をしたんだ……
だけど、断られたよ……

……お願いだ奏さん、あいつの、茜の才能は本物だ。
絶対アメリカでも通用する。

このまま、終わりにさせたくは無いんだ……」