◇◇◇





「よし、出来上がり♪鏡見て?」


私は閉じていた目を開けて、立ち上がり、ドア横に立て掛けられてある姿見の前に立つ。


「………これ…私?」


姿見の中には浅葱色に紫陽花があしらわれた浴衣に紺色の帯。

髪はアップにされて、高い位置で少し大きめのお団子に和柄なかんざし。

こめかみから下がる後れ毛は揺る巻きされて、前髪は横に流して少し固められていて。

普段は長めの前髪で隠れている額が露になって、綺麗に揃えられた眉の下は、薄いブラウンのアイメイク。

マスカラでくるりと巻かれた睫毛は普段の1.5は長くなっていて、唇もグロスのせいか少し膨らんで見える。


とにかく目の前に居るのは……


「間違いなく奏ちゃんでしょ?」


静さんが後ろに立ち、私の肩に手を置いて、鏡の中の私に向かって微笑みかける。


……私…だよね?
…うん。私みたい…
同じ動きしてるし……


「俺の最高傑作かも、でもベースが最高だから、何やっても最高になるのかな?ははは」

「…あ…ありがとうございます、静さん…こんなに…素敵に…変身させてくれて…」

「どういたしまして、下に行ってごらん?茜のやつ、絶対に惚れ直すから、ははは」

「はい」


私はドアを開けて階段を降りるとドキドキしながらリビングに向かう。


…佐野君……
どんな顔するかな?
緊張しちゃう……


「……あの」


リビングの入り口から遠慮がちに声を出すと、ソファーでテレビを見ていた全員が私の方を見て。


「……かなちゃん、キレー…」

「…うん…何か…女優みたい…」

「…やるわね…静…」


美樹ちゃんと拓也君とお母さんはそう言ってくれたけど、佐野君だけは何も言ってくれず、ただ無表情でじっと私を見ていて。


佐野君もこの私を見てきっと誉めてくれるって思っていたんだけど、佐野君の予想外の反応にちょっとがっかりしてしまった。


「……うっ……ぷはぁっ……」

「あはは、佐野君たら、かなちゃんに見とれて息すんの忘れてたんでしょ?」

「……うん……スゲー綺麗…心臓、止まるかと思った」


佐野君のその言葉に私の心臓も止まりそう…