再び車に乗り込み美樹のマンションへと向かいながら拓也に電話をかける。


『はい。もう着いた?』

「いや、まだだけど、後15分位で着くから、その頃に下まで出てきて」

『了解』


閑静な住宅街に入り、以前に拓也と一緒に来た事がある美樹のマンションが見えてきた。


「あ、美樹ちゃん」


奏がウィンドウを開けて手を振ると、気付いた美樹と拓也がピョンピョンと跳ねながらこちらに手を振っていた。


マンションの前に車を停めて兄貴が車から降りると。


「やあ、こんにちは、茜の兄の静です、二人とも可愛いね?」


ん?

……二人とも?


俺と奏も車から降りると美樹がニヤリと黒く笑っていた。


「始めまして、あたし美樹って言います、静さん佐野君そっくりですね?こっちは友達の拓美ちゃんです♪」

「え?……拓美?…ふぐっ!」


拓也が美樹に何か言いかけたけど、美樹の肘が拓也の脇腹に当たるのを見たのは俺しか居ない。


拓也を見てみるとピンクのロゴTに、デニムのハーフパンツ、ユニセックスな格好に女の子みたいな顔立ちの拓也を、兄貴はどうやら女だと思っているらしい……


確かに何も知らないやつが見れば、拓也は女の子みたいに可愛い顔立ちをしている……


「美樹ちゃん、それ、乗った」


面白そうだ。


「ふふふ…さすが佐野君…拓美ちゃん♪ちょっとこっち来て♪」


美樹は拓也の腕を掴むと、マンションのエントランスへと引っ張って行った。


「……美樹ちゃんと拓美ちゃんと奏ちゃん…やべ、萌える…ぐふふ…」


二人の背中を見送りながら変態静が激しく萌えていた。


「あの、佐野君、静さん何か勘違いしてるんじゃ…」


奏が俺に小声でそう言ってきて。


「拓ちゃんは女の子、奏もそのつもりで」

「え?拓也く…「じゃなくて拓美ちゃん、わかった?」

「う…うん、わかった…」

「はは、バカ静、いつ気付くかな?」


奏は申し訳無さそうに兄貴を見ていたけど、兄貴は萌えトリップ中でそんな奏の憐れな視線に気付きもしないで、ニヤニヤと色々な妄想を膨らませているに違いない。


……やっぱりバカだ。