「響屋、ですか?」
佐野君のバイト先。
今日せっかく佐野君が来てくれたのに、忙しくて全然話せなかったから、凄く嬉しい。
初めてのアルバイトの感想とか、今日は沢山メールしようと思ってたんだけど、直線会って話せる。
「うん。あそこが気使わなくていいし、それにマスターからお祝い届いちゃったし、お礼に行かないと…って…奏ちゃん…嬉しそうだね?」
「…えっ?…そうですか?」
「うん。いい顔してる、やっぱり作った笑顔より、好きなやつの事を思う時の笑顔がいちばん可愛いね?」
「………」
なんて答えていいかわからない…
そんなに私ニヤケてた?
恥ずかしいな…
「……奏ちゃん、茜の事が、凄く好きなんだね…」
カケルさんには私の気持ちなんかもうバレバレみたい…
「……はい…」
私は素直に頷いた。
ホントの事だから…
「…でも…佐野君には…秘密にしといて下さい…」
「………どうして?」
どうしてって……
この気持ちは隠し通す事しか、今の私には思い付かないから。
ホントは言ってしまいたい。
でも言ってしまったら、私達の関係は終わってしまいそうで…
私が佐野君の事好きになったりしたから…
佐野君の気持ちに応える事も出来ないくせに、それでも佐野君と一緒に居たいと強く願う私が全部悪いんだ…
「…意地悪な質問だったね?…ごめんね…」
カケルさんはわかってくれてる。
佑樹の事も、佐野君の事も…
「でもね?奏ちゃん…君がほんの少し勇気を出すだけでも、状況は変わって来るかも知れない、君は色んな事、我慢しすぎだと思う。時には素直に、我儘になってみるといいよ…」
そう言ってカケルさんは冷蔵ケース越しに私の頭を優しく撫でてくれて、私はその手の暖かさと優しさに、涙が出そうになってしまった。
ありがとう。カケルさん。
でも…カケルさん…
お父さんやうちの事を考えると、やっぱり私には…そんな事出来そうにないよ…

