使い古した名刺入れから名刺を取り出して、新しい名刺入れにそれを移し変えるとお父さんは徐に口を開いた。


「…奏…」

「あっ、お茶入れるね?」


椅子から立ち上がろうとする私にお父さんは。


「いいから、座りなさい」


「……」


私はしぶしぶ腰を下ろした。


「…成美さんの事なんだけど」


「…うん」


いつまでもこの話題から逃げる訳にもいかず、私はうつ向いた。


「…奏は、お父さんに…その…恋人…とか出来るのは反対か?」


…ううん、反対じゃないよ…
ホントは嬉しい位だよ…
でも…


「…ごめんなさい、お父さん…私突然の事で驚いて…反対とかじゃなくて…」

「そうか…奏の気持ちも考えずに悪い事をしたな…でもな?奏ならわかってくれると思ってだんだ、奏にだって…佑樹君が居るだろ?」


ズキンと胸の奥に傷みが走る。


「………うん」

「お父さんも初めは戸惑ったさ、こんな気持ちなったのは久しぶりだったし、それにもういい歳だしな?」

「…歳って、まだ40歳じゃない…」

「はは…もう若くはないよ…」


お父さんの気持ち…
痛い位によくわかる…
私だって…佐野君が大好きだから…


私だってお父さんの事言えない…


嘘ついて佐野君に会ってる…


嘘ついてまで大好きな人と一緒に居たい。


お父さん。


私もお父さんと同じだよ。


でも私はお父さんと違って佐野君の胸に飛び込んでいく事は出来ない…


それは私一人の問題じゃないから。


お父さんが幸せになるのは嬉しいけど、それは益々私を苦しめる…


「……食事…いつ行くの?」

「え?何だ?」

「成美さんと食事…いつ行くの?」

「あ…いいのか?奏が嫌なら無理しないでも…」

「…だってお父さんの恋人でしょ?お父さん仕事以外はボンヤリでお人好しだから…しっかりした人かどうか、きちんと観察しないと」


私は無理矢理、笑顔の仮面を張り付けた。


「……ありがとう、奏…」