◇◇◇



「恭介さん、送って頂いてありがとうございました」


助手席の窓越しにペコリと頭を下げると、恭介さんはニコッとって。


「うん。おやすみ、奏ちゃん、バイト先、遊びに行くからね」


「はい。待ってます、おやすみなさい」


車に手を振り恭介さんを見送り、アパートの階段を上がりながら部屋を見上げると、灯りが点いていて、お父さんがすでに帰って来てる事が伺える。


鍵を開けて中に入ると、お父さんは帰宅したばかりらしくまだスーツを着ていて、自室に入る所だった。


「あ。お帰り奏、お父さんも今帰って来た所だったんだ」


「…うん。ただいま…」


なるべく顔を合わせないように、自分の部屋に入ろうとしたら。


「奏…ちょっと、いいか?」


「……何?」


「座って話そうか?」


「…うん」


部屋には入らずリュックを抱えたままダイニングのテーブルに着く。


その時にふわりとお父さんからまたあの香水の香りがして、私は思わず顔をしかめる。


こんな事しちゃいけないってわかってるけど、どうしても顔に出てしまう。


お父さん、やっぱりあの人と合ってたんだ、そうじゃなかったら香水の香りなんて移ったりしない…


会社なんて嘘ついて…


「…成美さんの事なん…」


「あっ、あのねっ、お父さん、今日父の日でしょ?私、お父さんにプレゼントがあるんだ」


リュックから今日お父さん用に買った名刺入れを取り出す。


「昇進したし、名刺も新しくなったでしょ?部長さんになったんだから、それなりの物持たなくちゃ、そんなに高級品じゃないけど、一応ブランド物だよ?ちょっと奮発しちゃった」


一気に喋ると小さなプレゼントの箱をお父さんの前に置く。


「え?…ああ、父の日か…忘れてた、ありがとう奏…開けてもいいか?」


「うん。開けてみて?」


包装を丁寧に剥がすと、お父さんは革の名刺入れを広げて見せた。


「ありがとう、奏…大切に使うよ」


「うん」