「……………っ、くそっ!」

ガバッと勢いよく起き上がり、玄関のドアをバッと開ける。

瞬間。ゴインと鈍い音がして。

「ふぎゃっ!!」

「キョンちゃん…死ねばいいのに…」

外で鼻を押さえて踞る恭介の上から毒矢を放つ。

「いって〜…痛いだろ?茜っ!あぁっ!血!鼻血が出ただろが!」

「…俺の心も血だらけだ」

「はあぁ?何だよそれっ?」


玄関先での攻防に奏が割って入ってきて。


「恭介さん?血って…あっ!大変!佐野君、邪魔、退いてっ」


俺を押し退け奏は恭介をうちに上げると、シロをカゴごと俺に押し付けて、タオルを濡らし、恭介を寝かせて、あろう事か膝枕をして、鼻にタオルを強く押しあて、首の後ろをトントンと軽く叩き出してしまった。


その素早い動きに俺は付いていけず呆然と立ち尽くす。


…奏…
いくら何でもそれは…


「恭介さん?大丈夫?」

「……大丈ばないかも…」

「ごめんね?痛かったでしょ?もうっ、佐野君?乱暴にドア開けたら危ないじゃない」


キッと俺を睨む奏。


「でも…」

「でもじゃありません。ちゃんと恭介さんに謝って」


なんで俺が謝らないといけないんだ?
タイミングが悪い恭介の方が悪いだろ?
あんな所で邪魔されたら誰だってキレるぞ?


…せっかく奏と二回戦…


なんて。
言えるはずもなく深く息を吐く。


「…キョンちゃん、悪かった、とりあえずそこから退け…」


奏の膝は俺の物だ。


「やだ」


なんだと?


「……キョンちゃん、やっぱ死んどく?」

「奏ちゃ〜ん、茜が怖〜い」


奏にしがみつく恭介。


「あっ、恭介さん動いたらダメ、血が止まらないよ?もうっ!佐野君っ!」


再び奏から睨まれてしまった。


そんな顔も可愛い…


とか思ってしまう俺は、すでに末期である事に間違いない。


恭介め…


殺すのは明日にしといてやる…


シロをカゴから出してやると、チリン、と鈴を鳴らして奏の側に走っていった。


「ふふふ。シロ、お帰り」


奏に撫でられてゴロゴロと喉を鳴らすシロと恭介…