◇◇◇



早朝。
黙ってうちを出る。

昨夜は佐野君から送ってもらって直ぐにお父さんが帰宅して、自室に隠っていた私は、部屋をノックされても開けなかった。

お父さんの顔を見たくなかった。

入浴しようと思って部屋を出たら、お父さんが何か言いたげに近付いて来たけど、素早くすり抜けて。

その時にお父さんから香水の香りが漂ってきて、益々私を苛立たせた。

佑樹からもメールが来てて、それにはお父さんと喧嘩してしまったから先に帰ったと返事をして、明日は美樹ちゃんと朝から出かけるとだけ付け加えた。

私はこんな小細工しないと佐野君に会えないのに…

佑樹から逃げ出す所か、益々動けなくなってしまいそうなのに…

………お父さんなんて…

佐野君のアパートに向かいながら、気持ちがどんどん沈んでいきそうになるのを堪えながら歩いていると、涙が出そうになる。

ダメダメ。
今日は佐野君と遊園地行くんだから。
泣いたりしたら佐野君がまた心配しちゃう。

コンビニで朝御飯買っていこう、二人で食べて、それから出掛けよう。

佐野君の事を考え出したら、途端に心が暖かくなる。


コンビニに寄り、牛乳とサンドイッチとお握り、シロに猫缶。

袋を下げてアパートのドアに鍵を差し込む。

まだ午前7時。
ちょっと早すぎるよね?
佐野君まだ寝てるだろうな。

部屋に入ると佐野君は、やはりまだ眠っていて。
シロも佐野君のベッドの上で丸くなってる。

ふふふ。
二人とも可愛い。

なるべく物音を経てないように買ってきたものを冷蔵庫にしまう。

ベッドの隅にスプリングが軋まないようにゆっくりと腰を下ろし、手を伸ばし佐野君のふわふわで柔らかいクセ毛を撫でる。

「……ん…」

佐野君がピクリとして私は慌てて手を離す。

起こしちゃ可哀想。
それに佐野君の寝顔もっと見ていたい。

「……ん〜…奏…」

佐野君は私の名前を呼んで手を伸ばしてきて、

「え?…わっ」

腕を引っ張られてベッドに倒れ込んでしまった。

佐野君はそのまま私にギュッと抱きついてきて。

「…さ、佐野君?」

私の目の前に佐野君の綺麗な顔。

規則正しい寝息。