「あれ?茜戻って来たのか?」
「うん。後片付け位は手伝うよ、ごめんマスター、抜け出したりして」
一度アパートに帰ったけど、店が気になってまた戻って来た俺。
金曜の夜だからまだ客は居て、カウンターを見ると洗い物が貯まっていた。
洗う暇も無かったんだと少し気が引けた。
着替えて洗い物から片付ける。
てか恭介に洗わせると微妙にグラスに曇りが残っていて、無性に腹が立つ。
実はA型、几帳面な俺。
「奏ちゃんとなんかあったのか?茜?」
恭介がカウンターに腰掛け聞いてきた。
「…父親と喧嘩したんだよ…」
「なんだ、そんな事か、お前血相変えて出てったから、なんかあったのかと思ってたよ、俺」
「キョンちゃん、忙しかったろ?ごめんね?」
「いいって、戻って来てくれたから助かったよ、俺。洗い物苦手…」
最後の客がテーブルを立つと恭介はレジへと向かう。
これでラストだろう。
「キョン、暖簾しまえ」
思った通り厨房からマスターの声がして、恭介は客を見送ると暖簾をしまう。
マスターはカウンターの中に置いてある椅子に腰掛けると、いつものようにビールを飲み出す。
「ぶはー、うめー」
「…マスター、オッサンみたいだよ」
…あれ?このやり取りにデジャヴ?
「はは…もうオッサンだよ」
「最近腹がヤバいんじゃない?」
「…お前、痛いとこつくね?」
「響子さんに嫌われるよ」
「マジか?筋トレでもするか」
「普段運動してないと、いきなり筋トレとかやったら腰とか痛めるよ、まずは軽くジョギングからやったら?」
「…走るのやだ…」
…何子供みたいな事言ってんだ?
このオッサンは…
厳つい顔のわりに、時々こんな子供みたいな事を言うマスターが結構好きだったりする俺。
でも、この辺のチンピラ共から恐れらてんだよな。
その過去にどんな生き方があったのかは知らないけど、マスターが皆に頼られる存在なのには、それなりに訳があるんだろうな。
「ねえマスター」
「ん?なんだ?」
「全てを引き受ける人間ってどんな人間なのかな?」
マスターは暫く空を見つめて、
「……諦めない人間…じゃないかな?」

