奏のうちに着くとまだ父親は帰って来てなくて、少しだけ安心した。

何故かって?
お前は誰だとツッ込まれたら困るだろ?


「ありがとう、佐野君…」

「今日は早く休めよ?明日早いんだから」

「うん。明日は起きたら直ぐに佐野君のアパートに行くから」

泣きはらした瞳で笑顔を作る奏。

手を伸ばしその瞳にキスを落とす。

次に唇に軽く。

「待ってる、お休み、奏」

「お休みなさい、佐野君」


ドアを締めて来た道を戻る。

心配だけどもうすぐ父親も帰ってくるだろ?
進路の事とかもきちんと話せば、先生にだって口添えしてくれる筈。
じっくり話し合って仲直りしろよ。


奏のアパートを出て歩道を歩いて居ると、一台のタクシーがハザードを点けながら通り過ぎた。

俺の出てきたアパートの入り口にそいつは停まり、多分奏の父親だろうと振り反ったら、降りてきたのは案の定奏の父親で。

ん?
誰かもう一人乗ってる?

後部座席に座ったままの足だけ見えている、その履き物からそいつが女だと伺える。

父親は前にかがんでその女にキスしていた。

ドアが締まり、タクシーは女を乗せて走り出した。

……マジかよ…
…やるな…奏父…

俺は何だか見てはいけないようなものを、見てしまったみたいでばつが悪く、慌てて視線を反らした。


……しかし父…
あんなに奏を泣かせといて、それはどうかと思うぞ?

もっと節操を持たねば。
俺みたいに。

「!…」

ジーンズの後ろボケットが振動して、取り出し開いて見るけど知らない番号。

……誰からだ?

「……はい、誰?」

『俺だよ、カケル、さっきも電話しただろ?』

そう言えば、さっきは慌てて出たから見てなかった。

「うん。それで?」

『奏ちゃんは?』

「今送ってきた」

『そうか、ごくろうさん』

「アスカちゃんにもお礼言っといて」

『わかった。それと茜…お前に話があったんだ』

「何?」

『奏ちゃんは俺がいただく』

…は?

「…カケルさん、俺に犯罪者になれと?」

『何でだよ?今から犯罪犯すのか?』

「うん。今から殺しに行くから、そこで待ってて、今どこ?」