玄関先で奏に背を向けしゃがみ込む。
「え?…何?」
「何って…靴無いだろ?おんぶ、ほら」
「えっ?いいよ、佐野君の靴貸してよ」
「…俺の靴、29だぞ?」
「……29」
「だから、ほら」
「…でも」
「仕方ないな」
立ち上がり奏の背中と足に手を回し、ヒョイと横抱きに抱えた。
「!っ…わあっ!」
「おんぶが嫌ならこれしか無いだろ?肩に担ぐ訳にもいかないし…」
「歩けるからっ、裸足で歩くからっ」
「ダメだ、許さない、怪我する」
「…じゃ、じゃあ、おんぶ、おんぶでお願いしますっ」
「了解」
奏を下ろして再びしゃがみ込む。
「…お、お邪魔します…」
「はは、何だそれ?お邪魔しますって」
「…な、何となく?」
「あはは。奏って時々面白い事言うよな?たまに敬語になるし」
奏は俺の背中に身体を預けた。
「ま、そんな所が可愛いんだけ…どっ、はは。軽…」
「…軽くないよ、佐野君が力持ちなんだよ」
ドアを開け外に出る、少し湿った生ぬるい風が流れてきた。
階段を下りて奏のうちへと歩き出す。
「…おんぶなんて…いつ以来だろ?」
耳元で奏がそう言うと、
「子供の頃だろ?」
「……うん…覚えてるのは…幼稚園の頃…」
「父さんに?」
「うん…」
「はは。おんぶは父親の役割だからな」
「………」
「…何で喧嘩したの?」
「………」
「…言いたくないら聞かない、ごめん…」
「……お父さんが…許せなかったの…」
「うん」
「…私ばっかり…我慢…してるの…」
「うん」
「…自分は…楽しそうに…笑ってて…」
「うん」
「…わっ、私も…そうなりたいのにっ…ぅっ…」
「うん」
「じっ、自分ばっかり…ズルいと…おっ…ひっく…思って…」
「うん」
「せっ…先生も…ひっく…大学…進学し…しろって…
「うん」
「せっかく…やりたい…事っ…見つかった…のに…うっ…」
「うん」
「それすら…ダメ…って…言われてる…気がして…うぅぅ〜…」
ギュッと腕に力を入れて、奏はひたすら俺の背中を濡らしていた。

