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いつものようにグラスをピカピカに磨いていると恭介が、

「茜〜。アスカちゃんから電話だぞ〜」

「は?アスカちゃん?何で?」

「俺が知るかっ、ほら」

カウンターの隅に置いてある固定電話の受話器を俺の方に向ける恭介。

受話器を受け取り、

「……はい」

『あっ。茜くん?』

「うん。アスカちゃん、どうしたの?店に電話なんて…」

『奏ちゃんのケー番教えてくんない?』

「は?奏の?何で?」

『今日あたしね、カケルに頼まれて、駅前ビルの完成披露パーティーに来てるんだけど…』

…そう言えば今日奏も駅前ビルのパーティー行くって言ってたな…

「うん。それで?」

『奏ちゃんたら、お父さんと喧嘩しちゃったみたいで、その場から走って居なくなっちゃったの』

…父親と喧嘩?

『その時あたし、奏ちゃんが靴擦れで足傷めてたから、その代わりの靴探しに行ってて、戻ってきたらもう奏ちゃん居なくなってて、奏ちゃんが履いてたピンヒールもその場に置いてあったっから…、裸足で、走ってどっか行っちゃったみたいなの』

「裸足で?」

『うん。だからあちこち探してみたんだけど、見つからなくて、奏ちゃんのケー番知らないから、奏ちゃんのお父さんも探しに行ってて…茜くんなら知ってる筈だと思って、だから電話したの、バイト中にごめんね?』

「そんな事は別にいいよ、俺も探しに行く、あ。奏のケー番はね…」

とりあえずケー番を教えて電話を切る。

「マスター!今日はもう上がらせて!」

エプロンと手拭いを外しながら厨房に向かい声を荒立てた。

「おっ!なんだ?茜?どうした?」

マスターの後ろをすり抜けながら、

「ごめん!埋め合わせはするから!」

休憩室に上がり巣早く着替える。

「じゃ、お疲れ!ホント、ごめん!」

「おうっ!気にすんな!お疲れ!」

背中にマスターの声を聞きながら、引き戸を開けて、バイクを引っ張り出す。

メットを被りバイクに股がりエンジンをかける。

二三度アクセルを回し、ギアを入れて走り出す。

…奏…
…喧嘩って。
……裸足って…
……何があったんだ?


行き交う人をすり抜けて駅方面へとバイクを走らせる。