…お父さんその人、誰?


「あ、奏…そこに居たのか、探してたんだ」


お父さんとその人は笑顔で私に近付いてきて、


「始めまして、貴方が奏さん?わたし、楠田成美って言います、お父さんの健吾さんとは同じ会社なんです、よろしくね」

「…奏です。父がいつもお世話になってます…」


椅子から立ち上がり慌ててお辞儀しようとしたけど、片足しかピンヒールを履いて無かったのでバランスを崩して、よろけてしまった。


「おっと、危ない、奏ちゃん気を付けてね?」


カケルさんに支えられて、転ばなくて済んだ。


「あ…ありがとうございます、カケルさん」

「奏…そちらの方は?」

お父さんはチラリとカケルさんに目配せ。

「あ、僕ですか?始めまして、奏さんのお父さんですね?僕は……」


カケルさんはさっき佑樹に話したみたいに、お父さんにも同じように説明していた。


「そうだったんですか、娘を宜しくお願いします」

「はい。お嬢さんは責任を持ってお預かりしますね?失礼ですがそちらの方は?奥様?…ではないですよね?あまりにもお似合いだったものですから…」


……うん。
お似合い、まるで恋人同士みたいに…


「…あ―、そう来ましたか?実はね奏?」


お父さんは私に視線を移すと、


「…お父さん、成美さんとお付き合いしてるんだ…今日奏にきちんと紹介するつもりだったんだ」


と照れたような笑顔を見せるお父さん。

隣の成美さんも同じような表情でお父さんを見ていて、誰の目から見てもそれはお互いを愛しんでいるものに見える。


………お父さん…

……何で?

そんなに幸せな笑顔で……

…私……

…こんなに我慢してるのに…

…お父さんの為に…

…佐野君が大好きなのに……

…………ズルい…

ズルいよ!お父さんっ!

お父さんばっかり!

そんなに幸せそうな顔して!

私も佐野君と一緒に居たいのにっ!


「!っ……」


鼻の奥がツンとして、一気に涙が溢れ出してしまった。


私はピンヒールを脱ぎ捨てて、その場から走り出した。