「えぇ〜、日曜もバイトなの〜?」
彼女は机越しに向かい合わせ、佐野君の方に身を乗り出していた。
「うん。バイト」
佐野君が言うと、
「茜ってば、いつもバイトバイト!全然遊べないじゃん!」
「…はじめからそう言ってただろ?バイト忙しいから遊べないって…」
佐野君がウンザリしたように言う。
「…そうだけどさぁ…茜、全然遊んでくんないし…」
とブツブツ文句を言う彼女。
別に聞くつもりはないんだけど。
席。隣だし、嫌でも聞こえてしまう。
日曜って事はあれだよね?
さっき視聴覚室で言ってた事だよね?
彼女とじゃなく、私と遊んでくれるの?
佐野君。
ホントにいいの?
「ねぇ?奥村さん、酷いと思わない?」
彼女が私に急に話を振ってきた。
びっくりした。
「えっ?え〜と…何が?」
私は驚きながらも、なるべく自然に、文庫本から顔を上げて、彼女の方を向く。
全部聞いてたけど、本に集中してるフリをしていた。
「茜ったら、バイト忙しいって全然遊んでくんないの、たまにはバイトより彼女優先してほしいよね?」
「…ははは。どうだろ?」
私は何て答えていいかわからなかった。
「奥村さんの彼氏、知ってるよ。優しそうでいいなぁ、茜とは大違い!」
「…そうでもないよ…」
「え〜?優しいじゃん!頭いいし、カッコいいし!羨ましい」
何でそんな事言うの?
佑樹と浮気してるんでしょ?
佐野君が居るくせに。
「…やめろよ、美里。奥村さん固まってるだろ?」
佐野君が横から口を挟んできた。
奥村さん…
その呼び方が何だかとても佐野君を遠くに感じる。
「そんな事ないよね?奥村さん、茜はガールズトークに入って来ないでよ」
「お前と奥村さんの間に会話が成立するとは思わない…」
「何それ!ひどっ!あたしがバカって言いたいの?どうせあたしは奥村さんみたく頭良くないわよ」
と言って彼女が立ち上がると、丁度昼休み終了の予鈴が鳴り、彼女は 「じゃあね、奥村さん」と笑って教室から出ていった。

