「そうだったんですか、僕知らなくて、失礼な事言ってしまったみたいで、申しわけありませんでした」


とにこやかに笑顔で答える佑樹。


「奏…何で言わなかったんだ、ここでバイトするって」

グラスを私に差し出しながらそう言う佑樹に、

「…あ…まだ、採用かわからなかったし…」


心臓がドキドキと激しく脈打つ。

カケルさん。
ありがとう。

どうして誤魔化してくれたのかはわからないけど、とりあえず助かった。


「採用に決まってますよ、こんなに綺麗なお嬢さんなんだから、あ。うちはスイーツ好きの男性客を狙った戦略でいくつもりなんですよ、だから従業員も可愛い子ばかり集めてるんです、最近はスイーツ好きの男性が増えてますからね、そこを狙って男性客でも気軽に入れるような店を目指してるんですよ。佑樹君はスイーツ好きですか?」

スラスラとよく話すカケルさん。

「いや、僕は、甘いのはちょっと…」

「あはは。そうですか?あまり甘くないスイーツもありますから、是非一度いらして下さいね?」

「ありがとうございます、その内伺います、奏。あっちに挨拶しに行こう」

「あ、奏さん足が痛いみたいですよ?ほら見てあげて下さい…」

「足が?奏、ちょっと見せてみろ」


佑樹はかがむと私のピンヒールを脱がせた。

見ると踵に血が滲んでいて、


「あ、やっぱり、これじゃ歩けませんね?」

「…仕方ないな…奏はここで待ってろ」


佑樹は立ち上がると、失礼します。とカケルさんに会釈して人混みの中に入っていった。


残された私はホッと胸を撫で下ろす。


「…あの…カケルさん…私…」

「茜には言わないよ」

「え?」

私は驚きカケルさんを見上げた。

「あはは。そんな必死な目しなくても大丈夫、何となく察しはつくから…」

「…ありがとう…カケルさん…」

じんわりと目頭が熱くなる。

「その代わり条件がひとつ」

私の目の前で人差し指を立てるカケルさん。

「…何ですか?条件って」


するとカケルさんは私の前にしゃがみ込み、ニッコリと笑うと。


「うちの店で働く事」

「…はい」

私も出来るだけ笑顔でそう答えた。