「あ。もうこんな時間?」
佐野君がバイトに出掛けてから、シロと遊んでいたらいつの間にか午後6時になろうとしていた。
そろそろ帰らないと。
「シロ、ごめんね今日はここまでだね?」
−ニャァ〜…
「…泣かないで、また遊んであげるから、佐野君が帰って来るまで留守番しててね?」
そう言い残し、いつもより少し早めにうちに帰る。
部屋に入ると壁に掛けられた白いイブニングドレスが嫌でも目に入る。
昨夜宅配便で送られてきたドレス。
佑樹のうちから送られてきた私用の正装。
さっきまで幸せな気分だったのに、急に憂鬱になる。
嫌でも襲ってくる。
これが現実。
制服を脱ぎシャワーを浴びてそれに着替える。
鏡の前に立つと胸元が大きく開いていて、それを隠す為に同色のストールを羽織る。
鏡の前に立つ私はまるで人形みたいな無表情な顔をしていて、その冷たい表情に自分で自分が怖くなる。
薄く口紅だけ引いて、タクシーを呼びアパートを出る。
慣れないピンヒールで既に足が痛い。
タクシーが来てそれに乗り込み行き先を告げる。
タクシーが走り出すと、私は大きく息を吐く。
お父さんは会社から真っ直ぐに行くらしい。
私はタクシーで来るようにって。
……行きたくない…
行きたくない、行きたくない…
心の中で何度も唱えても、タクシーは目的地以外の場所には行ってくれなくて。
私の気持ちとは裏腹にあっさりと私をそこに運んでしまった。
駅前、15階立てのテナントビル。
色々なショップが入るらしいから、駅前と言う事もあって、新たなスポットになるんだろうな。
ビルを見上げて、ため息をついて中に入ると、直ぐにスーツを着た佑樹の姿を目付けた。
「…奏…似合ってる」
言うと佑樹は私の腰に手を回し、エレベーターで二階に上がる。
エレベーターを出るとそこは大きなホールになっていて、沢山の正装した人達で賑わっていた。
立食パーティーらしく、それぞれに自由に動き回っていた。
何となく結婚式みたいなパーティーかと想像していた私は少しだけホッとした。

