佐野君は私より早くにアパートに帰っていて、もうバイトに出掛けてると思ってたから、佐野君がまだ居て少し嬉しかった。
バイトに行く為に着替えながら佐野君は、
「…奏、またうちに泊まりに来ない?」
そう言ってきた。
「え?…うん。いいよ、いつ帰るの?」
「…土曜日」
明日は土曜日だから、てこは来週の土曜日かな?
「…明日」
「え?…明日?」
「ごめん、俺忘れてた、明後日、父の日じゃん?母さんにやって父さんやらないのもどうかと…」
…父の日かぁ…私も忘れてた。
うちのお父さんにも何かあげないと。
最近お父さん益々仕事忙しいみたいで、週末は帰って来ない日もある。
でも毎日生き生きしてて。
……仕事…頑張ってるんだね…
「うん。いいよ」
「そっか…よかった、母さんがまたしつこいんだよ、連れて来いって…」
「お母さんが?」
「…兄貴もだけど…母さんが奏と買い物に行きたいんだと、この前奏と遊べなかったから、次は自分が奏一人占めするんだって…」
「遊ぶって、あはは、お母さん可愛い」
球技大会の時の写真も渡したいし、丁度いいかも。
……でも。
「シロは?どうするの?また静さんが迎えに来てくれるの?」
「いや、シロはキョンちゃんに預かってもらうから、バイクで行こう、それとも車の方がいい?なんなら電車でも…」
「バイクで行きたいですっ!」
「…何故敬語?…まあ、うん。じゃあバイクで行こう」
バイクに乗れる。
佐野君のバイクに乗れる。
どうしよう、凄く嬉しいよ。
だって佐野君のバイクに乗せてもらったのは、あの時以来だから、もう一ヶ月以上も前だし。
ああ。凄く楽しみ。
「あ。やべ、そろそろ行かないと…」
佐野君は時計をチラリと見ると慌てて玄関へと向かう。
私とシロはお見送り。
「じゃ、戸締まりよろしく」
「うん。気を付けてね?」
「……シロ、お前ちょっと邪魔…」
佐野君はシロを摘まむと床に放し、私の背中に手を回し、抱きしめてくれて、
「……………………よし。充電完了。じゃ、行ってきます」
「……うん。行ってらっしやい」

