いつまでも頬を摘まんだまま私の顔をじっと見ている佐野君。


「…ひゃのふん、はなひて」


私は恥ずかしくてそう言うと、佐野君はさらに反対側の頬も摘まんだ。


「…はは。変な顔」

「…ひろい…ひゃのふん」

「嘘。スゲー可愛いよ」


顔がさらに熱くなった。


やっぱり佐野君は慣れてる。
何となく彼がモテるのがわかる。


佑樹とは全然違うタイプ。


でも彼も私と浮気している訳だから、一概にそうとは言えないけどね。


浮気。


そうなんだ。
これは浮気なんだ。


佐野君と初めてキスをした日から、佐野君は私にキスしてこない。


時々こうやって話すけど、ホントにそれだけ。


だから忘れそうになるけど、私達はお互いに浮気相手なんだよね。



佐野君はやっと手を離してくれた。


「…そろそろ戻るか」


言うと佐野君はテーブルから降りて立ち上がった。


「…てっ」


カクンと佐野君は少しバンランスを崩した。
私は咄嗟に佐野君を支えた。


「だ…大丈夫?」

「…はは。大丈夫、わり」

「何かにつまづいたの?」


下を見てみたけれど何もない。


「……今日、雨降るな」

「雨?晴れてるのに?」

「うん。降るよ、膝が痛むし…」


なぜ膝が痛むと雨が降るんだろう?不思議に思い「何で?」と聞いてみた。


「昔ちょっと、ね。無理しちゃって…」


佐野君は苦笑いしながら曖昧に答えた。


私は佐野君にしがみつくような格好で佐野君の肩を支えていることに気付き、急に胸の鼓動が激しくなって、それ以上聞くことが出来なかった。


近い。


キス……されるかな?


すると佐野君は私の腕を肩から離し、また私の頬を摘まんだ。


「一緒に出るとマズイだろ?先、戻ってるから」


そう言って視聴覚室から出ていった。


私は佐野君が出ていったドアを暫くじっと見つめていた。


摘ままれた頬に手をあてる。


顔が熱い。


佐野君。
何でキスしないのかな?


私はそんな事を考えてしまい、さらに胸がドキドキしてしまっていた。