公園にたどり着くと、当たり前だけど他に人影はなく、入り口付近に設置された街灯と月明かりが、ひっそりと夜の公園内の遊具達を照らしていた。


「ね?ブランコ、乗らない?」


奏はそう言うとブランコに乗り、キー、と音をたてながら、ゆっくりとブランコを漕ぎ出した。

その隣のブランコに俺も立って乗ってみたけど、頭がつかえてしまった。

子供サイズに適応しない俺。

「あはは。佐野君、大きいから立ち漕ぎ出来ないね?」

「だな?でもこんな事は出来るぞ?」

ブランコの上の鉄棒を掴みグッと身体を持ち上げて、足をかけブランコの更に上に腰掛け奏を見下ろす。

「……凄い」

「あはは。そうだろ?」

「いいな。私もそれやりたい…」

「奏には無理」

「だよね?」

ブランコを漕ぎながら笑顔で俺を見上げる奏。

ゆらゆらと前後する奏を目で追う。

「ねぇ、佐野君…」

「…何?」

「私…専門学校…行ってみようかな…」

「美容師の?」

「うん。私ね?…今までやりたい事とか、ホントに何も無くて、普通に大学行って適当に就職するんだって、そんな風にしか考えてなかったんだ…」

「…うん」

「今日の静さん見てて、私、ドキドキしちゃった、へへへ…」

「それで?」

「うん。私も静さんみたいになれるかはわかんないけど、やってみたいかなって…」

キッ、とブランコを止めて俺を見上げる奏。

その瞳はとても澄んでいて。

「出来るよ、奏なら」

「ホントにそう思う?」

「うん。あのバカ静がやってるんだ、奏にやれないはずないだろ?」

「…バカって佐野君…静さんはバカじゃないよ?」

「…わかってる…っよ、と」

言いながら足を鉄棒にかけ、逆さまになり鎖を掴んで回転しながら着地。

「…佐野君…いちいちやる事が凄い…」

「はは。そうか?」

今度はブランコに腰掛けてみる。

「…奏が美容師になったら、一生床屋代はいらないな…」

なんて事を口に出してしまう俺の隣のブランコに座る奏を見てみると、


「……なれたらね」


小さくそう呟いた。